文学の旅へのご招待〜鎌倉文学館コラム〜 元祖鎌倉文士・源実朝の魅力 館長:富岡幸一郎

鎌倉文学館では12月9日(日)まで秋の特別展「生誕820年 源実朝 くりかえしよみがえる歌」を開催しています。

鎌倉文士という言葉がありますが、鎌倉で生まれ、育ち、28歳で非業の最期を遂げた実朝こそ、元祖鎌倉文士と呼ぶにふさわしい歌人です。そして歌人としての実朝は、とりわけ近代(明治以降)に高く評価され、21世紀の私たちにも深い感動を与えてくれる歌をのこしました。

今回の見どころのひとつは、現代文学者による実朝秀歌のコーナーです。尾崎左永子、前川佐重郎、大下一真、高橋睦郎、長谷川櫂、藤沢周、城戸朱理、柳美里の8人の鎌倉にゆかりの方々に、実朝の秀歌を三首選んでいただき解説してもらいました。

正岡子規によって、実朝の歌は、『万葉集』の代表歌人・柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)以来の「歌よみ」であると評価されましたが、一言で“万葉調”といっても現代の私たちには少しわかりにくいところがあります。雄渾(ゆうこん)、率直、剛毅(ごうき)などと色々挙げることはできますが、しかし実朝の歌の響きの中には、武士(もののふ)の魂とともに、近代人のような個人の孤独と不安、自己の運命を予感した人間の悲しみがあふれています。

8人の文学者の方々は、そんな実朝の歌の魅力をそれぞれの言葉で引き出しています。それはこの800年前の鎌倉文士による「くりかえしよみがえる歌」の力でしょう。

源実朝生誕820年特別展実朝のこうした魅力は、小林秀雄をして絶唱ともいえる評論「実朝」を書かしめ、無頼派と称された太宰治に、少年の頃から書きたかった実朝を主人公にした小説『右大臣実朝』を実現させたのです。また、吉本隆明、中野孝次、岡松和夫といった文学者にそれぞれ印象深い実朝像を描かせています。源実朝とはこうして文字通り、くりかえし論じられ、その歌の心は今日の私たちに身近なものとして語りかけてきます。本展のポスターのように、鎌倉文学館で将軍さまというよりは現代の歌よみとしての実朝さんと、親しく語り合って見て下さい。

そして展覧会を観たあと、実朝の供養塔と伝えられる五輪塔のある寿福寺、「春待ちて霞の袖にかさねよと霜の衣をおきてこそゆけ」と詠んだ永福寺の跡、宋へ渡るための船を造った由比ヶ浜の鎌倉海浜公園・坂ノ下地区にある「世の中は常にもがもな渚こぐ海士の小舟の綱手かなしも」の歌碑など、実朝ゆかりの地を訪ねると、歌と鎌倉の魅力が再発見できると思います。

秋バラの見ごろにあわせて、11月25日まで「鎌倉文学館フェスティバル2012」を開催しています。詳しくはホームページをご覧ください。冬の収蔵品展は、12月15日から、「鎌倉文人録シリーズ7 ミステリー作家・翻訳家」を開催します。こちらもお楽しみに。

「世の中は常にもがもな渚こぐ海士の小舟の綱手かなしも」の歌碑
日展理事、日比野光鳳さん揮毫
「世の中は常にもがもな渚こぐ海士の小舟の綱手かなしも」の歌碑
(由比ヶ浜の鎌倉海浜公園・坂ノ下地区)

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