リレーエッセイ<鎌倉人>「適当に古い」第1回:養老孟司さん

鎌倉に暮らし、鎌倉を愛する「鎌倉人」の生の声をリレー形式でお届けするコーナーです。第1回の養老孟司さんから始まって、毎回の執筆者が次の執筆者を紹介していただく型式なので、どんな人が登場するか編集部にも予想がつきません。どうぞお楽しみに。

日本中あちこち、講演旅行をする。虫を採って歩く。国際マンガミュージアムの館長なので、月に一回は京都に行く。福島県須賀川市の虫テックワールドは、非常勤の館長になって十年になる。昆虫を題材にして、小中学生の理科教育を助ける施設である。

きちんと数えたら、鎌倉にいるほうが少ないと思う。虫の標本は箱根に置いてある。暇があれば、だから箱根に行ってしまう。

私にとって、鎌倉は休むところである。東京で働く人が多いはずだから、そういう人も多いのではなかろうか。ネコの顔を見て休む。気ままで弛みきったネコを見ると、気が休まる。

いまはたまたまオリンピックの時期で、当り前だがテレビに写る選手は緊張している。その前でネコが寝ているコントラストがいい。

鎌倉もちょっと気が抜けた町になるといいなあ。ネコを見ながら、そう思う。あんまりピカピカできちんとしていると、気が休まらない。東京で大会社の本社に行ったことがある。少し時間があったので、ビルの周囲を回ってみた。周囲が僅かの緑地帯になっているが、地面はほとんど舗装済み。植木のなかにユーカリが数本あって、その落ち葉を係りの人が掃き清めている。ビルのなかには大勢人がいるはずだが、昼時なのに緑地帯にはだれもいない。なんだか居心地が悪いからに違いない。

適当に古い寺社が多いから、鎌倉は人気があるのかなあ、と思う。自分が歳をとったせいかもしれない。ビルも自分と同じくらいに古いと、中にいて落ち着くような気がする。出来立てがいちばんきれい。そういう町は、古くなったら取り柄がなくなるじゃないですか。

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